デビッド・マキャンドレス / 情報は美しい。データビジュアライゼーションを仕事にした人。

データビジュアライゼーション インフォグラフィック

今回はデータビジュアライゼーション・インフォグラフィックの分野で著名な人物、英国人のデビット・マキャンドレス氏 (David McCandless, 1971-) [Wikipedia] (以下デビット)を取り上げたいと思います。デビット氏はデータジャーナリスト兼インフォメーションデザイナーとして活動しており、ウェブサイトinformation is beautifulの創設者として広く知られています。

デビット氏はデータの海から法則を見出し、人々の興味を引く美しいデータグラフィックを作成することで知られています。彼の美しい作品を集めた著書はインフォグラフィック・データビジュアライゼーションに関する参考書として多くのメディアで取り上げられてきました。

この記事ではデビット氏の書籍やTEDで行なった講演。そしてメインの活動である、『information is beautiful』の中からデータジャーナリストやインフォメーションデザイナーという仕事とはどういったものなのか?デビット氏が考える美しいビジュアライジングとはどういったモノなのか?といったことを彼の事例や言葉から探っていきたいと思います。

目次
データジャーナリスト兼インフォデザイナーとしての活動
作成事例紹介(infomation is beautifulより)
良いデータビジュアライゼーションとは?
美しいビジュアライジングとは?

データジャーナリスト兼インフォデザイナーとしての活動

英国人のデビット氏の経歴はプログラマーからスタートしました。その後、The GuardianやWIREDなどでライターの職務につきジャーナリストとしてのキャリアを築いていきます。その後コピーライターなどの広告業務も兼任しながら、現在の仕事であるデータジャーナリスト兼、インフォメーションデザイナーとなっています。彼自身が作成したビジュアルCVで各期間を確認することができます。

インフォメーションデザイナーとなって数年後の2010年には著書“Information is Beautiful” *1を出版します。こちらは前述の通り、情報を美しく見せる手法を説明したHow to本ではなく、The Guardian などへ寄稿していた彼の数々のインフォグラフィックが入った作品集となっています。

合わせてこの時期にはウェブ版の 『information is beautiful』 (ウェブ版は小文字表記)もスタートしており、こちらは現在までデビット氏が情報発信を行うメインメディアとなっています。

また同年にデビット氏はウェブオンラインスプレゼンテーションとして有名なTEDで講演を行います。この講演によって世界中に彼の活動は知れ渡ることになりました。講演の内容はデータからパターンを見つけ適切な方法で処理することで、いかに多くの人の興味を引く情報となるのかを、作成したインフォグラフィックス事例を見ながら、ビジュアライジングすることの重要性や面白さを説明しています。



Source: TED

デビット氏は講演の中で情報を可視化(visualizing)する理由についてこう例えています。

by visualizing this information, we turned it into a landscape that you can explore with your eyes, a kind of map really, a sort of information map. And when you're lost in information, an information map is kind of useful.

— 情報は可視化することによって目で探究できる景観に変えることができるのです。情報の地図と言ってもいい。そして情報の中で迷子になったら情報の地図は役に立つことでしょう

その後もデータビジュアライジングの必要性や価値についての講演活動を定期的に続けており、そのいくつかはウェブ上*2で見ることができます。

2014年には2冊目の書籍“Knowledge is Beautiful ” (2014)を出版します。こちらもデビット氏がそれまでに作成した1,000を超えるデータグラフィックの中から厳選した作品群を見ることができます。

そのほかの活動では "Information is Beautiful Awards" という優れたビジュアライゼーションに送る賞をマーケティング会社Kantarと共同で行なっています。
Information is Beautiful Awards(2020年休止中〜)

現在(2021年)のデビット氏は、定期的なカンファレンス参加や自身で開催するセミナーを続けつつ、ウェブサイトinformation is beautiful 内でデータビジュアライジング記事を定期的に更新する『Beautiful News』やスタートアップでインタラクティブなデータビジュアライジングを行えるツール『VizSweet』(現在紹介制)の運営などを中心に引き続き精力的に活動を行っているようです。

作成事例紹介(infomation is beautifulより)

デビット氏のライフワークとなっている、『information is beautiful』(web)では日々様々な分野のインフォグラフィックスやセミナー情報などを発信しています。ここでその中からいくつかを紹介していきたいと思います。

以下全て参照は information is beautiful より


Almost Half of California's Electricity Now Comes from Renewables
カリフォルニア州での電力およそ半分ほどがクリーンエネルギーでまかなわれているというグラフィック。

Source: [https://informationisbeautiful.net/beautifulnews/455-california-energy-mix/]


Left vs. Right (US)
USのリベラル派(Left)と保守派(Right)の様々な違いを可視化。本来リベラル側であるデビット氏でしたが公平に作成していく中では保守派にも共感できる自分がいて居心地が悪くなったと言います。

Source: [https://informationisbeautiful.net/visualizations/left-vs-right-us/]


Hangover Cures
人種や国の違いでの酔い覚ましに飲まれるドリンクという非常にユニークなテーマのグラフィック。

Source: [https://informationisbeautiful.net/visualizations/worlds-best-hangover-cure/]


Despite US Planned Withdrawal from the Paris Agreement
アメリカ合衆国が地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から脱退していた時期でも、アメリカ国内の多くの州・地域ではパリ協定の枠組みを守っていたというグラフィック。

Source: [https://informationisbeautiful.net/beautifulnews/676-paris-agreement/]


What is Consciousness?
人の様々な感覚を図解したインフォグラフィック。

Source: [https://www.informationisbeautiful.net/visualizations/what-is-consciousness/]


Renewable Energy is Untapped Energy
再生可能エネルギーはまだほんの少ししかエネルギーを生み出していないということがよくわかるグラフィック。

Source: [https://informationisbeautiful.net/beautifulnews/1029-untapped-renewables/]


Everyone, Everywhere is Living Longer
1960年から今日までの平均寿命の伸び方。データを見るとこの中に200を超える国地域のラインが入っていることがわかります。

Source: [https://informationisbeautiful.net/beautifulnews/41-everyone-everywhere-is-living-longer/]


Millions of Children's Lives Have Been Saved
ここ25年以上で多くの子供の死が減っているというグラフィック。

Source: [https://informationisbeautiful.net/beautifulnews/595-childrens-lives-saved/]


Diversity in Tech
各年のテック企業でどれくらい多種多様な人が働いているかがわかるインタラクティブなグラフィック。(実際の動きはリンクページからご覧ください)

link: [https://informationisbeautiful.net/visualizations/diversity-in-tech/]

良いデータビジュアライゼーションとは?

デビット氏はTEDでの講演で情報をデザインすることの目的をこうまとめています。

I wanted to say that it feels to me that design is about solving problems and providing elegant solutions, and information design is about solving information problems.

— デザインというのは問題を解決し、エレガントな解決法を提供することだと思えます。そして情報のデザインというのは、情報の問題を解決するということです。


その問題を解決するためにデビット氏が考える、良いビジュアライゼーションに必要な要素を図解したものがこちらです。ここからは4つの要素が必要だということがわかります。

  • 「情報(データ)」
  • 「ストーリー(コンセプト)」
  • 「ゴール(機能)」
  • 「ビジュアルフォーム(メタファー)」

例えばこの中で「ストーリー」だけ欠けてしまうと“退屈”なビジュアルになってしまい、「ゴール」が欠けていると“役に立たない”ものになるということがわかります。そして全てがうまく機能して中心の successful visualization になるわけです。

Source: What Makes a Good Visualization?


またデビット氏は、データやインフォメーションといった言葉の意味の捉え方として下記のような階層構造イメージを持っています。この図は前々からある図解にデビット氏がビジュアライジングに関する説明を加えたものです。

Source: Hierarchy Of Visual Understanding?

後の講義ではブラッシュアップされたこの考えを見ることができます。(9:10〜)ここでわかるのは 「データ」 の集まりが、 「情報」 となり、またその集まりが集合することで各分野の 「知識」 の塊になるといったイメージです。この考えはデビット氏がデータビジュアライゼーションを教える上での指導方針のもととなっています。



そう考えると、2冊目に出版したタイトルが“Knowledge is Beautiful ” というのはinformationの次へという意味で繋がっているのですね。

これらを踏まえるとデビット氏がデータを

I would say that data is the new soil.

— こう言いいましょう「データは新しい土壌だ」と。

と語った印象的な言葉の本質が理解できる気がします。この土壌を利用し活かすために必要なのが、ジャーナリストの目線であり、グラフィカルなデザインにする感覚であるというデビット氏が今日まで伝えてきていることなんだと思います。

はじめに彼の職業をデータジャーナリスト兼、インフォメーションデザイナー と言いましたが、兼業ではなくデータビジュアライゼーションにはどちらの資質も必要な部分であるということがここからもわかります。(そういった職業はデータビジュアリストと呼ぶのでしょうか?)

ちなみにデビット氏はデザインをアートスクールなどで学んだわけではありません。自分のデザイン感覚については、これまでの人生(職業)の中で既に多くのことを理解していたと言っています。これは

I don't feel like I'm unique. I feel that everyday, all of us now are being blasted by information design.

— すごい才能があるということではありません。私たちはみんな毎日情報デザインに晒されています。

It's being poured into our eyes through the Web, and we're all visualizers now; we're all demanding a visual aspect to our information.

— Webを通して私たちの目に流れこみます 私たちはみな視覚的な人間なのです 私たちはみな情報を視覚的なものとして求めています

こう語るようにデビット氏が特別なわけではなく、こういった情報デザインの感覚は日々の生活で自然と養われているものだということを言っています。

美しいビジュアライジングとは?

デビット氏の作成したグラフィックの中でも印象的なこちらのColors In Cultureは非常に目を惹き確かに美しいモノですが、内容を理解するには少々時間がかかるかもしれません。それを感じたのは私だけではなかったようで、同じくデータビジュアライジングの分野で働くRobert Allisonのブログ*3ではこのグラフィックの欠点をいくつか指摘しています。また、これを改善をするためにはシンプルなテーブル(表)構造で表すといいと提案しています。

Source: [https://www.informationisbeautiful.net/visualizations/colours-in-cultures/]

このように美しいと感じても実際の機能性を公平な目で判断することも忘れてはいけません。ここからも前述の「What Makes a Good Visualization?」の図のように格要素のバランスが非常に大事なのだと感じます。

今回デビット氏のグラフィックや講演映像を多く見て『information is beautiful』というメッセージが、データグラフィックそれ自体の美しさを指しているというよりは、情報を可視化することで 『見えていなかったもの』『想像と違ったこと』 のような何かを “気づいた”“発見した” といった感情を与えられるということに対して 『information is beautiful』 というメッセージ用いているのかなと感じました。

それと同時にビジュアル表現は強烈な印象を与えるだけに、単純に可視化したデザインだけに集中しすぎても危険であることも気づかされました。綺麗なデザインを作ることだけではなくジャーナリスト的観点を持ち他の角度からも検証することが、データビジュアライジングには非常に大切ですね。

最後にデータビジュアライゼーションを行う人に向けてデビット氏が勧める参考書籍の一覧ページがありました。こちらの中のいくつかは翻訳版も出ているので、気になる方はぜひ下記リンクからチェックしみてください。
Dataviz Books Everyone Should Read


参考文献
*1 "Information is Beautiful (English Edition)" / amazon.jp
"The Visual Miscellaneum: A Colorful Guide to the World's Most Consequential Trivia" / amazon.jp
"Knowledge Is Beautiful: Impossible Ideas, Invisible Patterns, Hidden Connections--Visualized" / amazon.jp


参考サイト
David McCandless.com
"David McCandless" / Wikipedia
"David McCandless" / The Guardian
The Power of Data Visualization With David McCandless
*2Visualizing Data for Better Policies - Full Session - WGS 2019 / YouTube
*3 Colors represent different things, in different cultures 11
The Power of Data Visualization With David McCandless
TED日本語 - デビッド・マキャンドレス: データビジュアライゼーションの美